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東京地方裁判所 平成5年(ワ)19715号 判決

原告 平山福雄こと 申福雄

右訴訟代理人弁護士 鈴木榮二郎

被告 株式会社 日本長期信用銀行

右代表者代表取締役 増澤高雄

右訴訟代理人弁護士 畠山保雄

松本伸也

主文

一  被告は、原告に対し、金四〇〇〇万円及びこれに対する平成四年六月九日から支払い済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

理由

一  請求原因事実のうち、平成元年一二月二五日、原告が被告から本件小切手の交付を受けた事実、本件小切手上の権利が、支払呈示期間中に支払いのための呈示がなされなかったため消滅した事実、及び右権利の消滅の結果、被告に金四〇〇〇万円の利得が生じた事実は、当事者間に争いがない。

二  次に、支払呈示期間を経過した時点で、原告が、本件小切手につき正当な権利者であったのかどうかの事実につき検討する。

1  当事者間に争いのない事実、成立に争いのない≪証拠省略≫並びに弁論の全趣旨により、

(一)  原告が、平成二年二月二八日ころ、神奈川県川崎市宮前区有馬四丁目一四番九号所在の自宅敷地内にあった普通乗用車内に保管してあった現金・株券を盗まれた事実。

(二)  右窃盗事件の被告人として起訴された丸山修及び池田一夫両名の公訴事実中には本件小切手が含まれていなかった事実。

(三)  被告に対し、本件最終口頭弁論期日である平成五年二月七日までに本件小切手に関する原告を除いて請求したものが存在しない事実。

の各事実が認められる。

2  右認定事実及び原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、本件小切手の支払呈示期間が満了する平成二年一月初旬ころ、正当に交付を受けた本件小切手を自宅敷地内にあった普通乗用車内に、株券・現金とともに保管していたところ、平成二年二月二八日ころ、前記被告人らに窃取されたが、本件小切手が支払呈示期間経過後の小切手であり、簡易な換金が困難であることもあり、同人らにおいて破棄ないし紛失したものと推認でき、支払呈示期間を経過した時点で、原告が本件小切手につき正当な権利者であったことを認めることができる。

三  次に、抗弁(原告が利得償還請求権を行使するためには、本件小切手について除権判決の手続を要するか。)について検討する。

利得償還請求権行使の前提として除権判決の取得を要するかについては、これを要するとする説と不要とする説に二分されているが、当裁判所は、利得償還請求権の行使が裁判上なされた場合には、これを不要と解するのを相当とする。すなわち、利得償還請求権は、「小切手」上の権利が消滅した場合に認められる小切手「法」上の権利であって、証券に表章された権利性を失った一種の指名債権であり、証券は単なる債権を証明するための書面に過ぎない。もちろん、除権判決の手続きを経て、償還金の交付を得たり小切手の再交付を得ることは一向に差し支えないが、それはかかる手続きを取ることによって善意取得者の出現を妨げ支払者の二重の支払いを事前に防止する効果を期待できるという意味において価値があるというに止まるものである。したがって、除権判決の手続きをとらないで利得償還請求権を訴訟において行使した場合は、利得償還請求権の取得の要件のみならず、それの行使の要件の有無についても、当然に主張立証されることにより、他に善意取得者のあらわれることの不安は解消されるのであるから、利得償還請求権が訴訟上行使されたときは、除権判決の手続きを必要としないものと解するのが相当である。もしかかる場合にも除権判決の手続きを要するとして請求を認めず、除権判決の手続きを取らせることは請求者に対して不当な手続きを強いることとなり、かえって権利保護に欠ける結果となるものというべきである。したがって、請求者が除権判決の手続きを経て利得償還請求権を行使するか、または、利得償還請求権を裁判上行使するかはその者の選択に委ねられているものというべきである。

四  以上により、原告の利得償還請求権は認容すべきであるが、付帯請求につき検討する。

本件利得償還請求権は被告の「手形その他の商業証券に関する行為(商法第五〇一条四号)」に準ずる行為であるため商事法定利率によるべきものであるが、起算点については、催告によって履行期が到来するものであるところ、原告の請求が、平成四年六月八日に行われたことについては当事者間に争いがなく、右請求日の翌日から履行遅滞となることが認められる。

五  以上によれば、原告の本訴請求は、被告に対し、金四〇〇〇万円及びこれに対する平成四年六月九日から支払い済みに至るまで年六分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条一項を、ただし遅延損害金については同法第一九六条二項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 澤田三知夫)

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